桂枝湯
今回は、45番の桂枝湯(けいしとう)です。
中国医学の古典の一つである「傷寒論(しょうかんろん)」の冒頭に登場する薬です。
傷寒論は、後漢の時代(西暦200年ころ)に張仲景という医師がまとめた急性の感染症を診るためのバイブルです。
桂枝湯は、主に感冒に使用する漢方薬で、桂皮(けいひ)、芍薬(しゃくやく)、大棗(たいそう)、甘草(かんぞう)、生姜(しょうきょう)の5種類の生薬で構成されています。
これは、他の漢方薬の基本となる構成です。
例えば、有名な葛根湯は桂枝湯に麻黄(まおう)と葛根(かっこん)を追加したものです。
下痢や腹痛でよく処方される桂枝加芍薬湯は、桂枝湯の芍薬を増量したものです。
桂皮は、身体の表面を温める働きがあります。
芍薬は、お腹や身体の痛みを和らげる効果があります。
大棗、甘草、生姜は、いろいろな漢方薬に頻用される胃腸を守る組み合わせです。
桂枝湯は、比較的体力がない方の風邪の初期に使用されますが、自然に汗がでるかどうかが処方のポイントになります。
体力があって皮膚が引き締まっている方は、風邪をひいても汗が出にくくなります。
その場合は、桂皮との組み合わせで発汗効果が増強される麻黄を含む処方の葛根湯や麻黄湯を選択します。
体力のない方は、強く発汗させると、さらに体力を消耗してしまうので、桂枝湯のマイルドな発汗作用が丁度良いのです。
基本的に漢方の風邪の初期対応は、西洋薬の解熱剤のように熱を冷ますのではなく、温めて気持ち良く汗を出してさっぱりさせる事を目標にしています。
大棗はナツメの実が原料の生薬です。
赤い色から中国の伝説の四獣の一つである朱雀を象徴する生薬です。
風邪などの感染症で当院で使うことの多い漢方薬を簡単にまとめておきます。
桂枝湯(45番): 体力がない方、胃腸の弱い方、
葛根湯(1番): 比較的体力がある方で、肩こりや後頭部の張りを伴う風邪の初期。
桂枝加葛根湯:葛根湯から麻黄を抜いた処方。妊婦さんにも使用可。(ツムラのエキス剤にはありません)
葛根湯加川芎辛夷(2番):葛根湯に鼻閉を解消する効果を加えたもの
麻黄湯(27番):高熱があって筋肉痛や関節痛がある風邪の初期。
柴胡桂枝湯(10番):やや急性期を過ぎて、咽頭痛や咳、リンパ腫大、
小柴胡湯(9番): 急性期を過ぎて脇腹が張るような消化器症状がある時
小青竜湯(19番):鼻水や咳、寒気が続く時
麦門冬湯(29番):痰が切れにくく顔が真っ赤になるほどの苦しい空咳が続いている時
竹茹温胆湯(91番): 痰を伴う咳が長引く時に使用
清肺湯(90番): 喫煙する人で慢性的に咳と痰が続く時
小柴胡湯加桔梗石膏(109番): 喉の痛みが強く扁桃に炎症が強い時
桔梗湯(138番): 咽頭痛が続く時 比較的体力がなく寒がりな方に使用
麻黄附子細辛湯(127番): 寒がりで咽頭痛を伴う体力が弱い方の風邪に
麻杏甘石湯(55番): 喘息のような苦しい咳が続く時
柴朴湯(96番): 喘息症状があり、気持ちの落ち込みも見られる時
香蘇散(70番): 年中風邪を引きやすいと訴えるご高齢の方に
補中益気湯(41番): 風邪の回復期に疲労感が続く時
現在、コロナウイルス感染症の蔓延により、多くの方が自宅療養を余儀なくされています。
軽症の場合は、病気の時期、体調、体質に合わせて漢方薬を使用することで、症状の緩和が期待できると思います。
参考:活用自在の処方解説 秋葉哲生著
Dr.浅岡の本当にわかる漢方薬 浅岡俊之著
漢方診療のレッスン 花輪壽彦著
自然の中の生薬 ツムラ株式会社版