今回は、70番の香蘇散(こうそさん)です。

胃腸が弱く神経質な方の感冒に適応のある漢方薬です。

香附子(こうぶし)、蘇葉(そよう)、陳皮(ちんぴ)、甘草(かんぞう)、生姜(しょうきょう)の5種類の生薬で構成されています。

香附子、蘇葉、陳皮は、香りの良い生薬で気の巡りを改善して気分をさっぱりさせる効果があります。

さらに、香附子は胃の痛みをとる作用があり、陳皮には去痰作用があり、蘇葉には解毒作用があります。

生姜は、胃腸をしっかりと温める効果があります。

甘草は、からだのバランスを整えるために配合されています。

全体として、気分がふさいで風邪をひきやすい方に、症状の軽いうちに使われる漢方薬です。

うつ状態の治療にも効果が期待できますが、ツムラのお薬には。感冒にしか適応がなく、神経症の治療のために長期的に使う場合は、コタロー製薬のお薬を処方しています。

「病(やまい)は気から」という言葉があります。

漢方で度々出てくる「気」という概念について考えてみましょう。

気は、からだの隅々まで流れていて、様々な生命活動を行うために必要な目には見えないエネルギーの事です。

ちょっと分かりづらいですね。

スター・ウォーズの「フォース」みたいなものと勝手に思っています。

気には、色々な働きがありますが、からだの表面に近いところに漂い、ウイルスや細菌などの外敵から侵入に備える防衛のための気を「衛気(えき)」といいます。

疲れやストレスによって気のめぐりが悪くなることを漢方用語で「気滞」と呼びます。

気滞になるとからだの表面に漂う衛気の量が減って、感染に弱くなるわけです。

香蘇散や、16番の半夏厚朴湯は、気滞を解消する代表的な漢方薬です。

ただし、これらの効果は、からだ全体の気の量が十分に保たれている事が条件です。

からだの気が少なくなってしまう状態を「気虚」と言います。

体力がなくなったり、うつが進行して気虚になってしまうと、巡りたくても巡る気がありませんので、香蘇散や半夏厚朴湯では太刀打ちできなくなります。

その場合は、気を補う補気剤(41番の補中益気湯や65番の帰脾湯など)が必要となります。

もちろん、休養が一番です。

蘇葉は、シソの葉が原料の生薬です。

香りがよく気を巡らせる働きの他に、解毒作用があります。

特に、魚や蟹の中毒に効果を発揮します。

このため、刺身のつまに良くシソが使われるのです。

気の巡りを良くする術は、何もお薬に頼るばかりではありません。

軽い運動をする、好きなドラマや映画を見る、気持ちの良い音楽を聴く、家族や気の合う友人と話をするなど、日常生活の中で気滞を解消する工夫が大切です。

 

参考:活用自在の処方解説 秋葉哲生著

漢方診療ハンドブック 桑木崇秀著

よくわかる漢方処方の服薬指導 雨谷栄・糸数七重著

東洋医学 基本としくみ 仙頭正四郎監修