今回は、65番の帰脾湯(きひとう)です。

体力がなく、血色が悪い方の貧血や不眠症の治療薬です。

全部で12種類の生薬で構成されています。

まず、人参(にんじん)、白朮(びゃくじゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、甘草(かんぞう)、生姜(しょうきょう)、大棗(たいそう)は、四君子湯(しくんしとう)という漢方薬と同じ構成で、胃腸を調え、食欲を改善して体力を補うための基本的な組み合わせです。

四君子湯に半夏(はんげ)、陳皮(ちんぴ)を加えたものが以前に解説済みの六君子湯(りっくんしとう 43番)になります。

 

黄耆(おうぎ)も気力、体力を補う強壮作用のある生薬です。

当帰(とうき)は、血を補う働きがあります。

木香(もっこう)は、キク科の植物の根が原料の生薬で、気分をさっぱりとさせる効果があります。

酸棗仁(さんそうにん)、竜眼肉(りゅうがんにく)、遠志(おんじ)は、いずれも気持ちを落ち着かせる作用のある生薬です。

全体として、気力、体力を補い、貧血を改善しながら、気持ちを落ち着かせることによってゆるやかに不眠を解消するというお薬になっています。

帰脾湯という名前は、「脾をもとの状態に戻すという薬」という意味合いが含まれています。

脾というのは、人体の機能を構成する五臓の一つで、からだに必要なエネルギーを作り出すという大切な役割を担った部門です。

脾の力が弱まれば、体力や気力が衰えて様々な変調をきたします。

では、脾の力をもどすには、どうしたら良いか。

昔の人も考えました。

そして、食事と睡眠を調える事が一番だと結論づけてこの処方を生み出したのでしょう。

食事や睡眠をおろそかにしては、健康にはなれないという事を知っていたわけです。

 

 

五臓の不調は、様々な病態の原因となり、相互に影響を受けます

 

遠志は、イトヒメハギという植物の根が原料の生薬です。

鎮静効果の他に、もの忘れを改善する働きがあるとされており、認知症の治療薬としても注目されています。

イトヒメハギの花

参考:活用自在の処方解説 秋葉哲生著

漢方診療のレッスン 花輪壽彦著

漢方診療ハンドブック 桑木崇秀著

Dr.浅岡の本当にわかる漢方薬 浅岡俊之著

よくわかる漢方処方の服薬指導 雨谷栄・糸数七重著