今回は、96番の柴朴湯(さいぼくとう)です。

気分がふさいで、のどや食道に異物感があり、動悸、めまいを伴う方の咳や気管支喘息に処方される漢方薬です。

9番の小柴胡湯と16番の半夏厚朴湯が合わさったもので、吐き気を抑える組み合わせである半夏(はんげ)と生姜(しょうきょう)が重複しています。

柴胡剤(さいこざい)の一つなので、ストレスで横隔膜の下の胸腹部が張っている状態(漢方用語では胸脇苦満と言います)を目標に処方されます。

さらに、半夏厚朴湯の特徴である食道に何かが詰まっていると感じる状態(漢方用語では梅核気と言います)も目標になります。

潤いを与える生薬は少なく、乾かす傾向が強くなるので、乾いた咳(空咳)にはあまり向きません。

その場合は、麦門冬湯滋陰降火湯などを使用します。

柴胡はミシマサイコの根を乾燥させたものが原料の生薬です。

気を巡らせ、身体にこもった熱や炎症を発散させる効果があります。

ミシマサイコの花

花の色が黄色いので、中国の霊獣の「麒麟」を象徴する生薬です。

麒麟は、太平の世に現われ、幸せを呼ぶとされている伝説の生き物です。

五行論では「土」、五臓では「脾」の守り神です。

キリンビールのマークにもなっていますね。

自然界のすべてのものは、「木、火、土、金、水」のいずれかの性質を持つというのが五行論ですが、それぞれに対応する五色が、「青、赤、黄、白、黒」になります。

古来、中国の王朝では、時代によって崇拝される色が異なります。

夏王朝は青、商(殷)王朝は白、周王朝は赤、秦王朝は黒、漢王朝は赤というように倒した王朝を否定するかのごとく五色の中から尊ぶ色を選んできました。

後漢末期に政治が乱れた時に、太平道の首領の張角が農民を集めて組織した軍は、漢王朝の「赤」を倒すために、「黄」をシンボルにして戦いました。

兵士は、みな黄色の頭巾をかぶっていたので黄巾の乱と呼ばれました。

クーデターは失敗しましたが、漢王朝はさらに弱体化して、三国志の時代に突入していきます。

 

参考:活用自在の処方解説 秋葉哲生著

漢方診療ハンドブック 桑木崇秀著

よくわかる漢方処方の服薬指導 雨谷栄・糸数七重著

漢方診療のレッスン 花輪壽彦著

生薬と漢方薬の事典 田中耕一郎編著

中国人の色の概念 それぞれの色の持つ文化的意味 張淑倩