六味丸
今回は、87番の六味丸(ろくみがん)です。
地黄(じおう)、山茱萸(さんしゅゆ)、山薬(さんやく)、沢瀉(たくしゃ)、茯苓(ぶくりょう)、牡丹皮(ぼらんび)の6種類の生薬で構成されます。
地黄、山茱萸、山薬は、いずれも強壮作用があり、からだを潤す働きのある生薬です。
沢瀉は、局所に余分にたまった水分をさばく作用があります。
茯苓も水分代謝に効果があり、めまいやふらつきを抑える働きがあります。
牡丹皮は、血のめぐりを改善され、下腹部の違和感や排尿トラブルの解消の役割を果たします。
全体として、熱を冷ます水分が足りないために手足のほてりや口渇がある方のめまいや排尿障害に効果が期待できるお薬となっています。
手足のほてりがなく、むしろ冷えが混在する場合には、からだを温める生薬である桂皮と附子を追加した7番の八味地黄丸を使用します。
さらに新陳代謝が低下した高齢な方で、水分が停滞し、足のむくみや痛み、しびれを伴う場合は、八味地黄丸に牛膝、車前子というむくみを取る作用が強い生薬を加えた107番の牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)を選択します。
八味地黄丸:六味丸+桂皮+附子
牛車腎気丸:八味地黄丸+牛膝+車前子
ここで漢方の重要な概念である「陰陽」について考えてみましょう。
陰陽論とは、全宇宙に存在するあらゆるものは、陰と陽の要素があり、互いに揺れ動きながらバランスを保っているという考え方です。
例えば、昼は陽であり、夜は陰で1日を形成しています。
夏は陽であり、冬は陰であり、その移ろいで1年が形成されています。
人間のからだも陰と陽のバランスが保たれることで、正常に機能することができます。
陽の中にも一部には陰があり、陰の中にも一部には陽があるとされています。
漢方では、肝、心、脾、肺、腎の五臓によってからだの機能が調整されているという五臓論があります。
五臓の陰陽のバランスが正常であれば、健康を保つ事ができます。
逆にバランスを崩せば、下図のような不調がおこり、お互いに悪影響を及ぼします。
五臓の中の腎は、ホルモン分泌や水の代謝、成長、生殖など生命活動の根源をつかさどる重要な臓器です。
年齢とともに、徐々に腎に蓄えられるエネルギー(腎気)は減っていき、老化現象の原因となります。
いわゆる腎虚という状態です。
上図のように、陰陽のバランスを保ったままに減っていくのであれば、八味地黄丸や牛車腎気丸の適応と考えられます。
しかし、陰陽のバランスも崩れた状態の腎虚になると違う対応が必要になります。
陽気が増えて、陰気が少ない状態を腎陰虚と言います。
この場合は、今回紹介した六味丸が適応になります。
一方、陰気が増えて、陽気が少なくなり、からだの冷えが強くなっている状態(腎陽虚)では、四物湯類の出番になります。
腎陰虚というのは、ラジエーターの調子が悪くなり、オーバーヒートを起こしてしまったエンジンのような状態です。
不具合を起こさないようにするには、日頃からの手入れと定期点検が必須です。
腎気は、先天の腎と後天の腎があります。
先天の腎は、生まれ持った生命エネルギーの根源のようなものです。
今、大リーグで大活躍中の大谷選手は、我々凡人とくらべると、とてつもなく大きな先天の腎を持って生まれてきたのでしょう。
しかも、正しい食事や睡眠といった養生で補われる後天の腎もしっかり増やし続けているので、あれだけのパフォーマンスができるのだと思います。
世界中の人から注目され、尊敬されている大谷選手を、我々日本人がが真っ先に見習いたいものです。
と言いながら、夜更かしして、眠い目をこすりながら大谷選手を応援している自分がいるのも事実です。
うーん。時差が憎い。
参考:活用自在の処方解説 秋葉哲生著
漢方診療ハンドブック 桑木崇秀著
よくわかる漢方処方の服薬指導 雨谷栄・糸数七重著
漢方診療のレッスン 花輪壽彦著
Dr.浅岡の本当にわかる漢方薬 浅岡俊之著
現代人のための処方解説 六味丸 井上淳子 漢方と診療 Vol.5 No3(2014.11)
処方紹介・臨床のポイント 六味丸 室賀一宏 安井廣迪 phil漢方 N059 2016