猪苓湯合四物湯
今回は、112番の猪苓湯合四物湯(ちょれいとうごうしもつとう)です。
その名の通り、猪苓湯(40番)と四物湯(71番)の合剤です。
効能効果は、「皮膚が枯燥し、色つやの悪い体質で胃腸障害のない人の次の諸症:排尿困難、排尿痛、残尿感、頻尿」となっています。
全部で9種類の生薬で構成されています。
まず、当帰(とうき)、芍薬(しゃくやく)、川芎(せんきゅう)、地黄(じおう)は、四物湯の構成生薬です。
血を補い、血のめぐりを改善させる補血剤の基本骨格です。
地黄が、胃腸に触ることがあるので、配慮が必要となります。
猪苓(ちょれい)、茯苓(ぶくりょう)、沢瀉(たくしゃ)、阿膠(あきょう)、滑石(かっせき)は、猪苓湯の構成生薬です。
猪苓、茯苓、沢瀉は水分をさばいて尿量を増やす効果があります。
阿膠は、止血作用があり、滑石は熱を冷ます効果があります。
全体として、慢性化して熱がこもったタイプの排尿トラブルに効果が期待できるお薬になっています。
四物湯と猪苓湯は、いずれも中国の古典に記載されている処方ですが、この二つを合わせて飲むことを始めたのは日本人です。
特に、昭和初期に活躍した漢方医の大塚敬節先生は、尿路系の結核患者に好んで使用したそうです。
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沢瀉は、オモダカ科のサジオモダカの塊茎が原料の生薬です。
サジオモダカは池や沼に生息する水生植物で、葉の形が匙(さじ)に似てることから名付けられました。
オモダカ科の植物の葉は、見方によっては矢じりの形にも似ていることから、勝軍草(かちいくさぐさ)の別名があり、戦国武将などのの家紋としても使用されています。
沢瀉には、体内の熱をもった余分な水分を尿として排泄するという効果があります。
湿り気の多い所に生育する植物の特性が反映しているのでしょう。
科学的にも主要成分であるアリソールという物質には、利尿効果があることがわかっています。
一方、乾燥した所に生息するジャノヒゲ由来の麦門冬の主成分はオフィオポゴニンでは、からだに潤いを与えて咳を止める効果があります。
大昔の人は、薬の成分を分析する術はありませんから、ひたすら植物の生育環境や特性を良く観察して、人間の病気の治療に役立つものはないかと探していたのだと思います。
参考:活用自在の処方解説 秋葉哲生著
漢方診療ハンドブック 桑木崇秀著
よくわかる漢方処方の服薬指導 雨谷栄・糸数七重著
漢方診療のレッスン 花輪壽彦著
生薬と漢方薬の事典 田中耕一郎編著
頻尿症状を伴うメニエール病非定型例に猪苓湯会四物湯が有効であった1例 白井明子 小川恵子 日本東洋医学会雑誌 Vol.74No.4 342-347,2023