今回は86番の当帰飲子(とうきいんし)です。

冷え性の方が、皮膚がかさかさに乾燥してかゆみを訴える時などに使用されるお薬です。

全部で10種類の生薬で構成されています。

まず、当帰(とうき)、川芎(せんきゅう)、芍薬(しゃくやく)、地黄(じおう)は、血を補い、血のめぐりを改善させる補血剤の基本である四物湯の構成生薬です。

荊芥(けいがい)、防風(ぼうふう)は、かゆみを発散させる効果があり、皮膚疾患に用いる漢方薬に多く含まれています。

黄耆(おうぎ)と何首烏(かしゅう)は、体力を補い、皮膚の栄養を高める効果があります。

蒺藜子(しつりし)も体力を補う効果があり、またかゆみを抑える働きも期待できます。

甘草は、水分バランスを整え、過度に脱水にならないように調整します。

全体として、冷え性で体力のない方に栄養をつけながら、つらいかゆみを改善させる効果がある漢方薬に仕上がっています。

熱や炎症を抑える効果のある生薬は含まれていないので、滲出物が多いじゅくじゅくとした湿疹には向きません。

その場合は、22番の消風散などが選択されます。

何首烏は、タデ科のつる性多年草であるツルドクダミの塊茎が原料の生薬です。

昔から強壮薬として使われていました。

古代中国に白髪の何(か)さんという人がいて、この生薬を服用したところ、首から上の髪が烏(からす)のように黒々としたという伝説からこの名前がついたと伝えられています。

ツルドクダミの花

蒺藜子も他の漢方薬にはあまり含まれていない珍しい生薬です。

暖かい地域の海岸に生えるハマビシの果実が原料の生薬です。

強壮作用があり、かゆみを抑える効果もありますが、毒性もあるので、サプリとしての使用は禁止されています。

ハマビシの花

参考:活用自在の処方解説 秋葉哲生著

漢方診療ハンドブック 桑木崇秀著

よくわかる漢方処方の服薬指導 雨谷栄・糸数七重著

漢方診療のレッスン 花輪壽彦著