平胃散
今回は、79番の平胃散(へいいさん)です。
胃もたれ、食欲不振、消化不良などの症状に使用するお薬です。
全部で6種類の生薬で構成されています。
生姜(しょうきょう)、大棗(たいそう)、甘草(かんぞう)は、胃薬としての定番の組み合わせで多くの漢方薬に含まれています。
蒼朮(そうじゅつ)は、余分にたまった水分をさばく作用があります。
陳皮(ちんぴ)は、芳香性健胃薬のひとつで、胃をきれいに掃除するような効果があります。
厚朴(こうぼく)は、苦味のある健胃薬で、上腹部の膨満感を改善する効果があります。
全体として、食べ過ぎや飲みすぎなどで胃がつかれて、動きが鈍くなった時に処方されるお薬となっています。
ただし痛みを改善する生薬は少ないので、胃痛が強い時には、あまり効果が期待できません。
その場合は、安中散、柴胡桂枝湯、芍薬甘草湯などから選択しています。
平胃散は、約900年前の中国の宋の時代に書かれた「和剤局方」という医学書が出典の漢方薬です。
この時代は、胃の中にピロリ菌などという細菌が潜んでいるとは、まったく思いもよらなかったはずです。
なにしろ、ピロリ菌が発見されてからまだ40年しか経っていないのです。
現在は、胃もたれなどの上腹部症状があれば、内視鏡検査などでピロリ菌の有無を確認して、感染していれば除菌治療をすことが常識になっています。
詳しくはこちらをご覧ください。
ピロリ菌の除菌ができるようになってから、胃潰瘍で何回も再発を繰りかえすような患者さんは激減し、日本人に多かった胃癌の発生も少なくなりました。
人類にとって測り知れない恩恵を受けた事はまちがいありません。
実際、ピロリ菌を発見した科学者はノーベル賞をとっています。
しかし、先日、NHKスペシャル「超・進化論」の中でピロリ菌の感染が、一部のアレルギー性疾患の発生を抑えている可能性があることを報告した研究者の言葉を伝えていました。
すぐに除菌治療を見直す必要はありませんが、今後の研究成果を見守る必要があると思います。
番組ではさらに、植物や動物、微生物が目にみえないネットワークでつながって共存して生きている事をわかりやすく解説していました。
古代の中国の人は、ピロリ菌は知らなくとも、植物などの自然の産物の不思議なパワーを察して、薬としてうまく活用していたのだと思います。
参考:活用自在の処方解説 秋葉哲生著
漢方診療ハンドブック 桑木崇秀著
よくわかる漢方処方の服薬指導 雨谷栄・糸数七重著
漢方診療のレッスン 花輪壽彦著