桂枝加芍薬湯
今回は、60番の桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)です。
腹痛やしぶり腹に適応のある漢方薬です。
しぶり腹とは、便意があっても、少ししか便が出ないで、何回もトイレに行くような病態です。
桂枝(けいし)、芍薬(しゃくやく)、大棗(たいそう)、甘草(かんぞう)、生姜(しょうきょう)の5種類の生薬が含まれています。
これは、感冒の初期によく使用される桂枝湯(45番)と同じ構成です。
桂枝加芍薬湯では、芍薬の量が、桂枝湯の芍薬の1.5倍に増量されています。
桂枝は、身体の表面を温める働きがありますが、桂枝加芍薬湯では、主にお腹を温めて胃の調子を良くする目的で使われています。
大棗、生姜もお腹を温める作用があり、甘草との組み合わせでしっかりと胃腸を守ります。
芍薬は、筋肉を緩める作用があり、過剰な腸管の動きを抑えることによって腹痛を緩和します。
全体として、身体が冷えてお腹が痛む方、慢性的な下痢あるいは便秘などの便通異常のある方に効果が期待できるお薬です。
芍薬は、ボタン科のシャクヤクの根が原料の生薬です。
ちょうど今ごろ、様々な色の花を咲かせる時期ですが、生薬に使われるのは、白い花の品種だけです。
「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」という美しい女性を形容する言い回しがあります。
これは、生薬の使い方を伝授する言葉だという説もあります。
すなわち、
「立てば」は、気が立てば、気持ちを落ち着かせる効果のある芍薬が良いですよ。
「座れば」は、長く座っていて下半身の血液が滞ってしまったら、牡丹皮(ぼたんぴ)が良いですよ。
「歩く姿は」というのは、歩く姿をシャキッとするには、百合(びゃくごう)が良いですよ。
ということです。
芍薬には、筋肉を緩める効果の他に鎮静作用もあるのです。
そのため、ストレスが関係すると言われる過敏性腸症候群の症状改善にも効果があると考えられます。
それにしても、芍薬を増量するだけで、すっかりお腹に特化したお薬に変化するなんて本当に不思議ですね。
参考:活用自在の処方解説 秋葉哲生著
漢方診療のレッスン 花輪壽彦著
漢方診療ハンドブック 桑木崇秀著
漢方薬の考え方、使い方 加島雅之著
Dr.浅岡の本当にわかる漢方薬 浅岡俊之著
自然の中の生薬 ツムラ株式会社