柴胡加竜骨牡蛎湯
今回は、12番柴胡加竜骨牡蛎湯です。
比較的体力がある方の高血圧、不眠、ヒステリー、動脈硬化症、慢性腎臓病などに適応がある漢方薬です。
何故このように多彩な効果があるのでしょうか。
構成生薬は、柴胡(さいこ)、黄芩(おうごん)、桂皮(けいひ)、茯苓(ぶくりょう)、半夏(はんげ)、人参(にんじん)大棗(たいそう)、竜骨(りゅうこつ)、牡蛎(ぼれい)、大黄(だいおう)ですが、ツムラの製剤には大黄は含まれていません。
フォーメーションを一見して気が付くと思いますが、ゴールキーパーの甘草がいません。
甘草は、体液を保ち身体を脱水状態からも守る働きがあります。
しかし、その作用が過剰に働くと不都合な事も起こり得ます。
甘草が入っている漢方薬には高血圧、浮腫、低カリウム血症の注意書きがあります。
さらに偽性アルドステロン症が起こることがあると記載されている場合があります。
アルドステロンとは、生物が塩分や体液を蓄え血圧を保つために重要な働きをするホルモンで、両側の腎臓の上方に存在する副腎という臓器から分泌されます。
生物が海や川などの水中から陸上に住むように進化するために備わったホルモンです。
したがってカエルなどの両生類以上の生物が持っています。
陸に上がった生物にとって体内に水分や塩分を維持して、脱水や血圧低下を防ぐ事は、生き残りをかけた一大事でした。
アルドステロンは、陸上生物の存亡の鍵となるホルモンなのです。
アルドステロンが過剰に分泌して高血圧をきたす原発性アルドステロン症という病気があります。
偽性アルドステロン症とは、この原発性アルドステロン症と同じような状態になる事です。
甘草の働きで過剰に体液量が増えれば、血圧は上がり、カリウムなどの電解質は薄まり、むくみも起こるというわけです。
したがって漢方薬を処方する場合は、必ず甘草の含まれる量に注意しなければなりません。
その点、甘草が入っていない柴胡加竜骨牡蛎湯は、高血圧の患者さんにも安心して処方できるお薬です。
また、この処方には、竜骨、牡蛎という特徴的な生薬が含まれています。
竜骨というのは、大型の哺乳動物の骨の化石であり、牡蛎は、カキの貝殻です。
どちらもカルシウムが多く含まれており、心を落ち着かせる効果があります。
さらに桂皮、茯苓の組み合わせは、めまいやのぼせの症状に効果があります。
身体所見としては、柴胡剤使用の目安となる胸脇苦満に加えて、神経の高ぶりで現れる腹部の拍動を強く触れる状態(臍上悸)が見られる方に使用します。
体力があって便秘がちな方にはスーパーサブとして控える大黄を加えてもよいと思います。
まとめます。
柴胡加竜骨牡蛎湯は、気分が高ぶってイライラし、血圧も上がり気味な時に処方するお薬です。
柴胡、黄芩が入っているので長期に使用する場合は肝機能障害や間質性肺炎には注意が必要です。
参考:活用自在の処方解説 秋葉哲生著
Dr.浅岡の本当にわかる漢方薬 浅岡俊之著