今回は、43番の六君子湯(りっくんしとう)です。

当院でも消化器症状のある方に良く処方しているお薬です。

6つの優れた生薬を君子になぞらえて命名されています。

すなわち、人参(にんじん)、蒼朮(そうじゅつ)または白朮(びゃくじゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、甘草(かんぞう)、半夏(はんげ)、陳皮(ちんぴ)です。

これに、大棗(たいそう)と生姜(しょうきょう)が加わっています。

色々な漢方薬の主役を務める生薬が集まったドリームチームのようなものです。

まるでオリンピックで金メダルを取った侍ジャパンみたいですね。

1番から6番まで山田選手、坂本選手、吉田選手、鈴木選手、浅村選手、柳田選手と各球団の主軸がずらりと並んでいました。

各生薬の作用を調整する大棗と生姜は、攻撃のつなぎや守備のスペシャリストとして大活躍した菊地選手や甲斐選手のようです。

まさに完璧なチームと言えます。

 

人参は、体力、気力を補う生薬の代表格です。

茯苓は、多くの漢方薬に含まれている生薬で、水分をさばく作用や気持ちを落ち着かせる作用があります。

朮も身体の水分代謝を促進する働きがあり、白朮はさらに体力増強の効果が期待できます。

半夏は、生姜との相乗効果で下から突き上げるような吐き気を抑える効果があります。

陳皮は、日本では主に温州ミカンの皮を干して乾燥させたものを原料としています。

胃の調子を整えるほかに、咳や痰を抑える働きもあり、風邪に処方する漢方薬にも使われています。

甘草、生姜、大棗は胃腸を守り、身体のバランスを保つ定番の組み合わせです。

全体として六君子湯は、からだを温める生薬が多いので、冷え性で体力が低下した方の胃腸症状に良く対応したお薬になっています。

 

漢方の腹診で、心窩部を指で叩くとポチャポチャと音がする所見を「胃内停水」と呼びます。

六君子湯は、この胃内停水を処方の目安にすることがあります。

下の写真は、胃のむかつきなどの症状があって受診したやせ型の40代女性の患者さんの内視鏡像です。

絶食で検査をしたのにもかかわらず、胃の中に黄色い胃液が大量に溜まっている所見がみられました。

この方に2週間分の六君子湯を処方したところ、劇的に胃の症状が改善しました。

六君子湯の胃の排出機能改善効果については、多くの研究論文で科学的エビデンスが報告されています。

食欲促進作用をもつグレリンというホルモンの分泌低下を改善することがわかっており、最新のガイドラインでも、六君子湯は消化管運動機能障害の治療薬の1つとして推奨されています。

 

温州ミカン

 

参考:活用自在の処方解説 秋葉哲生著

Dr.浅岡の本当にわかる漢方薬 浅岡俊之著

漢方診療のレッスン 花輪壽彦著

自然の中の生薬 ツムラ株式会社版

明日の診療に漢方をいかす 診断と治療 2011年5月号

機能性消化管疾患診療ガイドライン2021 日本消化器病学会編集

機能性ディスペプシアおよび食欲不振に対する漢方治療 武田宏司ら 日本消化器病学会誌 2010:107:1586-1591