加味逍遙散
患者: 「先生、今日はどうしても聞いて頂きたい事があって来ました。最近、頭の調子が悪いんです。頭が痛いというか、重いっていうか、もやもやするっていうか、とにかく調子が悪いんです。」
医師: 「そうですか。それは大変ですね。頭痛薬を出しておきますね。」
患者: 「それから、胸の調子も悪いんです。痛いっていうか、苦しいっていうか、熱いっていうか、とにかく変なんです。」
医師: 「それはつらいですね。湿布でも使ってみますか?それでも良くならなければレントゲンを撮りますね。」
患者: 「おなかの調子も悪いんです。痛いっていうか、張るっていうか、冷えるっていうか、何かおかしいんです。」
医師: 「整腸剤も出しておきますね。それでも良くならければお腹のエコーをしましょう。」
患者: 「いろんな事を言ってすみません。足の調子も悪いんです。足が痛いっていうか、攣るっていうか、重いっていうか、むくむっていうか、とにかくひどいんです。」
医師: 「それは、困りましたね。うーん。こちらも困りました。寝るときに足をマッサージしてはいかがでしょうか?」
患者: 「わかりました。ありがとうございました。」
医師: 「お大事にしてください。また何かあったら、すぐ来てくださいね。」 (あ~ やっと終わった)
ガラガラガラ(診察室の扉開く)
患者: 「先生、一番大切なことを聞くのを忘れました。手がしびれるんです。」
医師: 「. . . . . 参りました。」
別に医者を困らせようとして言っているのではありません。
本当に感じている事なのです。
いわゆる不定愁訴というものです。
不定愁訴に良く処方されるのが、今回取り上げる24番の加味逍遙散(かみしょうようさん)です。
逍遙の意味は、国語辞典によれば、気ままにあちこちを歩き回る様となっています。
訴えがいろいろと定まらない状態に効果が期待できるために逍遙散と名づけられました。
逍遥散は、エキス剤にはない漢方処方で柴胡(さいこ)、薄荷(はっか)、当帰(とうき)、芍薬(しゃくやく)、蒼朮(そうじゅつ)または白朮(びゃくじゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、甘草(かんぞう)、生姜(しょうきょう)から構成されています。
加味逍遙散は、これに牡丹皮(ぼたんぴ)、山梔子(さんしし)が加わったものです。
柴胡と薄荷はイライラを解消する働きがあり、当帰、芍薬は、血を補う作用があります。
蒼朮(白朮)、茯苓は水をさばく生薬で、甘草と生姜は胃腸を整えます。
牡丹皮は、血のめぐりを良くする生薬で、山梔子は、熱を冷まして乾かす作用があります。
このように加味逍遙散は多彩は作用を持つ生薬の配合であるため、様々な症状に対応する事ができるのです。
患者さんが抱える症状が何かひとつでも改善すれば、医師との信頼関係をつなぎ止める事ができます。
次回の診察で、どの症状が良くなり、どの症状が変わらないのか、逆に悪化している事がないかを確認する事で患者さんの問題の本質を見極めていきます。
その意味では、加味逍遙散は、出塁率の高い1番バッターのような存在です。
楽天でいえば、辰巳選手ですね。
さらに得点率の高い選手につなげる重要な役割があります。
加味逍遙散は、長期に服用する場合は、腸間膜静脈硬化症という副作用があり得ます。
黄連解毒湯の項でも触れましたが、山梔子との関連が考えられています。
山梔子は、クチナシの果実が原料の生薬です。
加味逍遙散を更年期障害の治療薬として数年飲み続ける場合は、腹痛や下痢などの症状に注意が必要です。
参考:活用自在の処方解説 秋葉哲生著
Dr.浅岡の本当にわかる漢方薬 浅岡俊之著
漢方診療のレッスン 花輪壽彦著
よくわかる漢方処方の服薬指導 雨谷栄・糸数七重著