漢方薬の13番は欠番ですので、今回は曲直瀬道三の「切紙」についての続きです。
現在、放送中のNHK大河ドラマ「麒麟がくる」も佳境に入ってきました。
非情な最期をとげた室町幕府の第13代将軍足利義輝、暗躍する松永弾正、細川家や三好家の武将など、今までの歴史ドラマであまり詳しく描かれていなかった人物たちが激動の時代の京都を駆け抜けています。
曲直瀬道三は、まさにこの時代の京都で稀代の名医として活躍していました。
実際に道三が松永弾正に授けた健康指南書の記録も残っています。
曲直瀬道三が京都に開いた医学校の入門書「切紙」の冒頭の57か条の2つ目には、「察脈證而可定病名之叓」とあります。
これは、「脈を診察して病名を定めるべきだ」という意味であり、脈診をとても重要視していた事がわかります。

漢方医学書集成4より引用

東洋医学の脈診は、3本の指で患者さんの手首の部分の脈をみます。
脈の速さやリズムばかりではなく、脈の触れる深さ、強さ、検者の薬指から人差し指に伝わる脈のスピード、脈の波打つ感じや張り具合などによって細かく分類されています。
脈診だけで妊娠していることを診断できたという記述もあります。

脈診

この中で、西洋医学にはあまりなじみのない浮脈、沈脈という分類について紹介します。
浮脈というのは、軽く触れただけで感じる脈のことで、風邪の初期で寒気がして、頭や首、腰などが痛む時などにみられます。
体力がある人で、浮脈であれば葛根湯が良く効くと考えられます。
体力のない方や妊婦さんには、麻黄の入っていない桂枝湯などが選択されます。

浮脈

一方、沈脈というのは、強く押さないと触れづらい脈で、身体の奥の方にトラブルが入ってしまった場合にみられます。
風邪をこじらせて、胃腸の調子も悪くなってしまったような時期にあたります。
沈脈が見られ、寒気を訴えている場合は、附子という生薬の入った麻黄附子細辛湯などを処方します。

沈脈

このように脈診は、処方の選択の大きな助けになりますが、必ず患者さんに触れなければなりません。
昨今、新型コロナウイルスの流行でオンライン診療のハードルが低くなり、当院でも導入しています。
初診からのオンライン診療も暫定的に可能になりましたが、発熱の患者さんをオンラインで適切に診断し、治療をするのは限界を感じています。
最近は、症状の落ち着いている患者さんの定期処方のみとなっているのが現実です。
オンライン診療は、とても便利なツールではありますが、脈診などを含めた身体診察も可能になるまでは、まだまだ時間がかかるかも知れません。
参考:近世漢方医学書集成4 曲直瀬道三 名著出版
   曲直瀬道三 乱世を医やす人 山崎光夫著
   戦国武将の養生訓      山崎光夫著
   漢方診療のレッスン     花輪壽彦著
   Dr.浅岡の本当にわかる漢方薬 浅岡俊之著