今年はじめての投稿です。

本年もよろしくお願い致します。

漢方薬の49番は欠番です。

今回も、戦国時代に活躍した医師の曲直瀬道三の著書の「切紙」から医師心得五十七箇条の一節を紹介します。

医則五十七ヶ条 近世漢方医学書集成4より

 

5番目の文、不執一識矣(一識を執らざれ)を取り上げます。

一つの知識に固執してはならない。

要するに専門バカになるなということです。

しかし、これはなかなか難しい課題であることをいつも実感しています。

私は、消化器内科が専門ですから、多くの患者さんは、腹痛や下痢などの消化器症状を訴えて受診します。

4、5年前のことですが、数日前から続く胸焼けや吐き気を主訴として来院した患者さんを診察しました。

あまり重症感はなく、逆流性食道炎と診断して胃酸をおさえる薬を処方して様子を見ることにしました。

しかし、症状が改善せず、翌日も受診しました。

念のため血液検査をしましたら、熱もないのに炎症反応が見られました。

もしやと思い心電図検査をしたところ、心筋梗塞の所見を認めました。

幸い状態が安定していたため、すぐに病院に紹介して事なきを得ました。

家で急変していた可能性を考えると、多いに反省すべき事例でした。

逆に循環器専門医に胸痛を訴えてきた患者さんが、心臓カテーテルをしても異常がなく、実は胃潰瘍だったという話もあります。

このように、自分の専門分野の症状に引っ張られると、他の領域の疾患が頭に浮かばない事があり得ます。

最近は、患者さんの訴えを詳しくコンピューターに入力して病名を確定するAI診断がさかんに研究されています。

入力した症状によって、考えられるあらゆる疾患をリストアップしてくれるので、見逃しを防ぐ効果が期待できるかもしれません。

しかし、患者さんが、自身に起こっている異変を表現する言葉は、千差万別です。

AI診断も間違った方向に誘導されてしまうことも考えられます。

最終的な判断は医師がすることにはかわりないので、AIが誤診しても医師には責任がないというわけでありません。

医師の責任逃れのためのAI診断になってはならないのです。

専門が細分化している現代医療においても、この曲直瀬道三の戒めを心に留めて、幅広い知識を得るべく研鑽していかなければならないと思います。

参考

近世漢方医学集成4 曲直瀬道三  大塚敬節ら編集

師語録 曲直瀬道三流医学の概要 小山誠次著