当帰四逆加呉茱萸生姜湯
今回は、38番の当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)です。
この暑い時期には、ピンとこないかも知れませんが、寒さで、しもやけができる程に四肢が冷えてしまう時などに処方されるお薬です。
寒さと言えば、私が大学時代に3年間住んでいた寮は寒い事で有名でした。
東北大学医学部の北側の新坂通に面した古い木造の寮で昭和舎という名前でした。
一見、人が住んでいると思われないようなたたずまいで、玄関から出ると「あ、お化け屋敷から人が出てきた~」と小さい女の子に指をさされたりします。
窓の隙間風がひどいので、冬支度は、まず窓枠にガムテープで隙間を防ぐ作業から始まります。
火事の予防のために、こたつの使用は禁止されていて、ストーブが一台支給されますが、部屋をあまりに汚くしていると没収されます。
私が最初に入った部屋は、下の階がトイレであったので、底冷えがあまりにひどく寮で唯一こたつの使用が許可されていましたので、毎晩お酒を飲むたまり場になっていました。
真冬の朝は、耳が凍ったように感覚がなくなり、真っ赤になってしまいます。
外にある洗面所の水は、氷のように冷たく、顔や手を洗うとすぐヒリヒリになりました。
私が入寮する2年位前にNHKのウルトラアイという番組で「人間がどこまで寒さに耐えられるか」というテーマの番組で取材に来ていました。
食堂の湯沸かし器のお湯を一升瓶に詰めて湯たんぽ代わりにする学生たちの姿を紹介していました。(うーん、やらせ?)
3食飯付きで月の寮費が2万円位でしたので、これくらいの寒さはしょうがないかと思っていました。
しかし、もしあの頃、この当帰四逆加呉茱萸生姜湯を知っていたら飲みたかったと思います。
(昭和舎 70周年記念寮友誌より引用)
当時は、携帯電話もなかったので、玄関ホールにある唯一の赤電話に電話がかかってくると、下の学年の学生が電話を取り次ぎ、食堂の前の窓を開けて中庭に向かって大声で「~さん、電話で~す」と叫びます。
女性からの電話の時は、「~さん、お電話で~す」と叫びます。
久々のお電話コールに2階からいそいで降りていったら、母親からの電話でがっくりきた事もありました。
どんと祭、花見、テニス大会、卓球大会、ダンパなどの年中行事があり、部活でやっていた剣道の大会の前には中庭で竹刀の素振りをしました。
まさに青春時代を謳歌した場所でした。
あ、もちろん医学の勉強もしていました。
残念な事に、昭和舎は平成12年9月に不審火で焼失してしまいました。
火事の発見が早く寮生は皆無事だったそうですが、ニュースで新坂通に面したトイレの2階の自分が住んでいた部屋がボーボーと燃えているのを見たときは、いたたまれない気持ちになりました。
話がそれてしまいました。漢方薬の話に戻ります。
当帰四逆加呉茱萸生姜湯は、大棗(たいそう)、桂皮(けいひ)、芍薬(しゃくやく)、甘草(かんぞう)、生姜(しょうきょう)、当帰(とうき)、呉茱萸(ごしゅゆ)、細辛(さいしん)、木通(もくつう)という9種類の生薬が含まれています。
大棗、桂皮、芍薬、甘草、生姜は、初期の感冒に使う桂枝湯と同じ構成生薬であり、お腹を温めて痛みを和らげる効果が期待されて配合されています。
当帰は血のめぐりを良くし、呉茱萸は温め効果で頭痛や吐き気を抑える働きがあります。
細辛も温める効果があり、からだのエネルギーの元である気を発散する事で痛みを緩和します。
木通は、からだにたまった冷えた水分を取り除き、関節の動きを滑らかにして痛みを抑えます。
全体として、寒い時期に手足が冷えて、お腹や頭も痛くなっているような時には最適のお薬となっています。
木通は、アケビのつる性の茎を乾燥させたものが原料の生薬です。
秋になるとアケビの実は縦に亀裂が入り、中には白いどろっとした甘い果肉が入っていて、食用になります。
また、固くなったつるは、籠などの工芸品を作る材料にもなります。
アケビの花言葉は「才能」だそうです。
二刀流や三刀流をこなし、植物界の大谷翔平選手といったところでしょうか。
大谷選手は、才能もさることながら、才能を磨き上げる努力もすばらしいですね。
後半戦もすごく楽しみです。
参考:活用自在の処方解説 秋葉哲生著
Dr.浅岡の本当にわかる漢方薬 浅岡俊之著
漢方診療のレッスン 花輪壽彦著
ジェネラリストのためのメンタル漢方入門 宮内倫也著
漢方薬の考え方、使い方 加島雅之著
自然の中の生薬 ツムラ株式会社版