今回は、84番の大黄甘草湯(だいおうかんぞうとう)です。

便秘に広く用いられるお薬です。

大黄(だいおう)と甘草(かんぞう)のみのシンプルな構成です。

大黄は、強い緩下作用を持つ生薬で、中心成分は、西洋薬にもあるセンノシドです。

センノシドが腸内細菌で代謝され、レインアンスロンという物質になったものが、薬効を発揮すると言われています。

したがって、腸内細菌を整えることも便秘解消には重要になってきます。

甘草は、大黄の働きを緩和して、過度に脱水になったり、激しい下痢や腹痛にならないように配合されています。

長期的に使用する場合は、血圧上昇やむくみなどの副作用の出現に注意が必要です。

漢方で古くから伝わる「欲求南風 須開北牖(ほくゆう)」という言い回しがあります。

これは、「南風を求めようとすれば、まず北の窓を開けなければない」という意味です。

江戸末期から明治時代に活躍した漢方医の浅田宗伯は、著書の「勿誤薬室方函口訣」で、大黄甘草湯の使い方をこの「欲求南風 須開北牖」という言葉を用いて解説しています。

漢方では、身体の上の方を南、身体の下の方を北と表現することがあります。

頭痛や吐き気、めまいなどの身体の上部の不調を改善するときには、身体の下部の不調(便秘)を改善する事が先決であり、大黄甘草湯はその目的に合ったお薬であると説いています。

春の南風のような心地よさを感じるためには、北の窓を少し開ける事(便通)がとても大事であるという事です。

南風と言えば、アニメの『タッチ』のヒロインの浅倉南のお父さんが経営している喫茶店の名前が『南風』だったのを思い出しました。

 

大黄は、タデ科の植物であるダイオウの根茎が原料の生薬です。

ダイオウ (引用 ツムラメディカルサイト)

参考:活用自在の処方解説 秋葉哲生著

漢方診療ハンドブック 桑木崇秀著

よくわかる漢方処方の服薬指導 雨谷栄・糸数七重著

漢方診療のレッスン 花輪壽彦著

自然の中の生薬 ツムラ会社編集

「欲求南風 須開北牖」の治法が有効であった慢性便秘症を伴った末梢性めまい症の1症例 谷村史子 日本東洋医学会誌 vol.70 No1 52-56,2019

浅田宗伯 勿誤薬室方函口訣 近世漢方医学書集成18 名著出版