漢方薬の42番は欠番です。

さすがに、薬の番号としては縁起悪いですね。

久しぶりに戦国時代の漢方医である曲直瀬道三(まなせどうさん)の書いた「切紙」の医則五十七ヶ条を紹介します。

医則五十七ヶ条  近世漢方医学書集成4より

今回は、3番目の「必先可察患者肯信与惰猜也」という言葉を取り上げます。

「必ず先ず患者の肯信(こうしん)と惰猜(ださい)とを察するべきなり」と読みます。

要するに、患者さんに健康に関する偏った考え方や、からだに悪い習慣がないかどうかを考える事は重要だと説いています。

しかし、私も忙しい時の外来では、どうしても症状を聞く事だけに走ってしまう事が多くなっています。

頭が痛いと言えば、痛み止めを処方する。

咳が出ると言えば、咳止めを出す。

下痢があれば下痢止めをという具合です。

道三は、そのような症状に至った患者さんの背景を考えなさいと諭しているわけです。

 

前回の補中益気湯の項でも養生(ようじょう)について触れましたが、曲直瀬道三も養生の大切さを強調しています。

道三が戦国武将の毛利輝元に贈った「養生誹諧」という著書があります。

衣食住の養生の基本を五七五七七にして詠み上げた120もの歌を載せています。

山崎光夫著の「戦国武将の養生訓」という本の解説を引用して2つの歌を紹介します。

 

「食ハ只 よくやハらげて あたたかに たらハぬ程ハ 薬にもます」

食べ物は、よく温めて軟らかく調理するとよく、食べ過ぎず足りないくらいの量の食事は薬以上の効果がある。

腹八分の大切さを教える歌です。

 

「老ぬるハ 立てミ居てミ 身をつかひ 心ハ常ニ やすむるぞよき」

歳をとったら、立ったり座ったりして身体を使い、心はいつも安らかにしているのがよい。

ストレスを解消するための方法を伝授している歌です。

 

戦国時代は、結核や赤痢、コレラなど原因や治療法も全くわからない恐ろしい疫病によって多くの命が失われた時代でした。

このような状況で、いかにして免疫を高めて身を守るべきかを常に考えて世間に発信していたのです。

コロナに苦しめられている現代のセルフケアの実践にも多いに参考になるものだと思います。

 

参考 近世漢方医学集成4 曲直瀬道三  大塚敬節ら編集

戦国武将の養生訓 山崎光夫著

師語録 曲直瀬道三流医学の概要 小山誠次著